今回のドラマを見ていて、自分がイメージしていた『天国と地獄』という作品の持っていたテンポとまったく違和感がありませんでしたね。旧作のテンポが今のドラマのように速いとは思えないのですが、やはり元の脚本がよくできていたということでしょうか。
観る前に心配だったのは、キーとなるピンクの煙をどうするんだろう?ということだったのですが、これも表現方法を変えることなく、うまくこなしてましたね。1960年代当時、モノクロからカラーに変わりつつあった映画界の中で、カラー映画を手がけていなかった黒澤監督が、パートカラーという手法で初めて映画の中に色を使ったシーン。それだけにインパクトがありましたし、逆にハイビジョン放送という中でそのインパクトが再現できるのかなと思っていましたが、取り越し苦労でしたね。
徹底した完璧主義で知られる黒澤監督は、映画に映らない部分まで作り込むといったこだわりを持って映画を作っていたことは有名ですが、旧作のときには誘拐された子供を電車の中から見るシーンで、その川沿いにあった一般の住宅を壊させたという逸話が残っています。普通に暮らしている家を映画のために壊してしまうというのはすごいことですよね。
その……黒澤イズムというか、そういう徹底ぶりが、今回のドラマでは希薄だった部分がちょっとあって、それが少し残念です。誘拐された子供の親である権堂の運転手が共犯者の家に向かうシーン。その時に乗っていた車と、後からきた警察の車、両方とも“わ”ナンバーでした……。見間違えかなぁ。もし見間違えじゃなかったら、ちょっとそれはありえないですよね。ハイビジョンの怖さとも言えますが、こういう細かいところがちょっと残念。
今晩はこれまた黒澤監督の名作『生きる』が放映されるわけですが、こちらはどうでしょうね。旧作は志村喬の演技がすばらしかっただけに、松本幸四郎のプレッシャーは大きいんじゃないでしょうか。旧作『生きる』は、個人的には黒澤作品の中で三本指に入る作品なので、21世紀版も非常に楽しみにしています。
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